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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《重吉漂流紀聞(じゅうきちひょうりゅうきぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 頁
十二月のはじめから急に暑気が強くなった。暦では寒のさなかだというのに焙られるような暑さで、日中は甲板へ出ることもできない。のみならず、凪ぎだとはいえそこは大海のことで、大波も来ればこれはと胆を冷すような風も吹く。そのたびに念仏を唱えて騒ぎたてるものだから、気力の弱いものはうろたえ疲れ、暑気と心労でほとほとに弱りこんでしまった。なかでも十六歳にもならぬ飯炊の房次郎と年寄の庄兵衛は、浪の色を見るのさえ物憂くなったのか、寝框にひっこんだきり、なにがあっても出てこぬようになった。伊豆組の三郎助、福松、田子村の丑蔵、音七、亀崎の半兵衛の五人は、益もない繰言のあげくは争論になり、海が荒れだすと、あわてて念仏をとなえ、凪ぎるとまたぞろ愚痴、
「おゝおゝ、国元ではどんなに案じていることだろう。此処かしこと聞きたずねても行方が知れぬから、もしや八丈島にでも居はせぬかと、八十八夜の八丈島の上り船をあてにして、首も細るほど待っているのだろうに」
丑蔵がいうと福松は首を振って、
「いや、そうではあるまい。当座の間は、好い夢を見たといってはうれしがり、悪い烏鳴きを聞いたといっては覚束ながり、神やら仏やら、あれこれと祈りまわるのであろうが、そのうちにはあきらめて空葬式をだし、一本華に仏の飯を供え、子供らを仏壇の前に坐らせ、よう拝むの