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じゅうきちひょうりゅうきぶん

重吉漂流紀聞

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《重吉漂流紀聞(じゅうきちひょうりゅうきぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 頁

青空文庫

名古屋納屋町小島屋庄右衛門の身内に半田村の重吉という楫取がいた。尾張知多郡の百姓だったのが、好きで船乗りになり、水夫から帆係、それから水先頭と段々に仕上げ、二十歳前で楫場に立った。文化十年、重吉が二十四歳の秋、尾張藩の御廻米を運漕する千二百石積の督乗丸で江戸へ上ったが、船頭と五人の水夫が時疫にかかって陸に残り、重吉が仮船頭をうけたまわって名古屋まで船を返すことになった。

和船も千二百石積くらいになると相当な大船で、蝦夷あたりまで行くこともあるから、舷も頑丈な三枚棚(三重張)につくる。甲板の下は横墨と船梁で区切って、舳から順々に、表ノ間、胴ノ間、※ノ間、艫ノ間と四つの間に別れ、表ノ間は座敷ともいい、八畳間ぐらいの畳敷で船頭がいる。胴ノ間は荷倉、※ノ間は炊事場、楫場の下の艫ノ間は二間に仕切られて楫取と水夫の寝框がある。

重吉は船頭から尾張藩の御船印と浦賀奉行の御判物を受取り、伊豆生まれの水夫を五人雇い入れて半田村の藤介を楫取にひきあげ、水夫頭に庄兵衛、帆係一番に為吉、同じく二番に七兵衛を据え、賄の孫三郎、水夫、綱取、飯炊など合せて十四人、帰り荷の燈油二百樽、大豆二百俵を積み、十月の下旬に江戸を出帆した。