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おちぼ

野菊の墓

伊藤 左千夫

線上閱讀伊藤 左千夫《野菊の墓(おちぼ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 25,621 字 · 52 頁

青空文庫

汽車をおりて七八町宿形ちをした村をぬけると、広い水田を見わたすたんぼ道へ出て、もう十四五町の前にいつも同じように目にはいるわが村であるが、ちょぼちょぼとしたその小村の森を見いだした時、自分は今までに覚えない心の痛みを感ずるのであった。現実が頼りなくなって来たような、形容のできない寂しさが、ひしひしと身にせまって来た。

何のかんのといってて十年過ぐしてしまった。母が三月になくなり、翌年一月父がなくなった。まだ二三年前のような気がする。そうしてもう十年になるのだ。両親の墓へその当時植えた松や杉は、もう大きくなって人の背丈どころではなかろう。兄はもちろん六十を越してる。兄嫁は五十六だ。自分は兄嫁より十しか若くはない。

こんな事を自分は少しも考える気はなかった。自分は今自分の心が不意に暗いところへ落ち込んで行くのに気づいたけれども、どうすることもできなく、なにかしら非常な強い圧迫のためにさらに暗いところへ押し落とされて行くような気持ちになった。

追われ追われて来た、半生の都会生活。自分は、よほどそれに疲れて来ているのだ。両親はもう十年前にこの村の人ではない。