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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(九) 全十冊

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(九) 全十冊(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,029 字 · 82 頁

青空文庫

娘の方にも、なにか聴きたいことがある様子です。

「昨夜朝倉屋の内儀が殺されかけました。御存じでしょうね」

「松次郎さんが、そんなことを申しておりました」

お妙は静かに答えて、少しも取乱した様子はありません。

「ところで、そのことについて、お嬢さんに打ち明けてもらいたいのですが」

「?」

「昨夜、お嬢さんは、畑の中を朝倉屋の寮へいらっしゃいましたね、――道のないところに、足跡がついておりましたよ」

平次は至って平坦な調子で、こう言いきったのは、不意の言葉から受ける、相手の反応が見たかったのです。

「え、参りました、――子刻(十二時)少し前でした」

お妙の答えにはなんのわだかまりもありません。

「…………」

平次は黙って先を促しました。

「一度――私は竜吉さんに別れを惜みたかったのです。丈夫な頃、逢ったきり、もう一年も話をしたことはありません」

「…………」

「昼では父が見張っていて、私を外へ出してはくれません。思いきって暗くなった畑の中を、真っすぐに参りました。朝倉屋はいつでもろくな戸締りをしないことがわかっております。そっと二階へ登って、あの人の死に顔に逢って参りました。