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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
線上閱讀江戸川 乱歩《陰獣(いんじゅう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 頁
私はその時まで、すっかり忘れていたけれど、春泥作「一枚の切手」という小説には、ヒステリィの医学博士夫人が、夫を憎む余り、博士が彼女の筆蹟を手習して、贋の書置きを作った様な証拠を作り上げ、博士を殺人罪に陥れようと企らんだ話がある。ひょっとしたら、春泥はこの事件にも、その同じ手を用いて、六郎氏を陥れようと計ったのではないだろうか。
見方によっては、この事件はまるで大江春泥の傑作集の如きものであった。例えば、天井裏の隙見は「屋根裏の遊戯」であり、証拠品の釦も同じ小説の思いつきであるし、春泥の筆蹟を手習いしたのは「一枚の切手」だし、静子の項の生傷が残虐色情者を暗示したのは「B坂の殺人」の方法である。それから、ガラスの破片が突傷を拵えたことと云い、はだかの死体が便所の下に漂っていたことと云い、其他事件全体が大江春泥の体臭に充ち満ちているのだ。これは偶然にしては余りに奇妙な符合ではなかったか。初めから終りまで、事件の上に春泥の大きな影がかぶさっていたのではなかったか。私はまるで、大江春泥の指図に従って、彼の思うがままの推理を組立てて来た様な気がするのだ。春泥が私にのりうつったのではないかとさえ思われるのだ。