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せいねんのしさくのために

青年の思索のために

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《青年の思索のために(せいねんのしさくのために)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 102,550 字 · 203 頁

青空文庫

三

定めし何かの長所があろう。然るに、ただの一度も彼に仏法を問わなかったのは、考えて見ると自分の一生のしくじりだ。求道の心が鈍っているといわれても、返す言葉はない。そうだ、機会を失ってはならぬ。――

三

それから数時間の後、彼は再び山門をくぐっていた。

旅装束のまま、法眼の前に首垂れていた彼の姿には、いたましいほどの敬虔さがにじみ出ていた。

「いかなるか、これ学人の自己。」

彼は、恭々しさの限りをつくして、かつて青峰禅師に対して発したのと同じ問を、あらためて法眼になげかけた。

燭の火が、かすかにゆれるばかりで、しばらく答がなかった。玄則は、おずおずと眼をあげて、法眼を仰ぎ見た。

法眼の眼には、湖の底から静かに浮き上って来るような微笑が湛えられていた。そして、世にもやさしい、柔和な声が、その唇から、水のように流れ出た。

「丙丁童子、来って火を求む。」

その声は、玄則の耳から胸へ、胸から腹へ、そして一本一本の髪の毛の先にまで、しみ透って行った。同時に、玄則の全身に、明るさと温かさが、白昼に雨戸を開けた時のように流れこんで来た。

玄則は、踊り上りたいほどの心を、じっと押さえて、法眼の前にひれ伏した。