輕讀日語

輕鬆讀懂日語經典作品

ja-reading.com

輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。

まと

魔都

久生 十蘭

線上閱讀久生 十蘭《魔都(まと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 頁

青空文庫

勝手にさせて置いたらいいじゃないか」

「しかし、……もう、これでお目にかかれぬのだと思いますと、……それにろくにお別れの言葉も申し述べずに……」

「くどい!」

ヒソヒソ話はこれでお終いになって、部屋の中は再び以前のような深沈たる趣きにかえる。どこかに置時計があるのだろう、時の流れはこのチクタクという音を媒介にして、ややもかも気ぜわしい渓流の音をたてる。

こんなふうにして五分、あるいは十分も経ったであろうか。廊下の遠い端の方で、扉の蝶番が軋るような仄かな音がした。一分ほど間を置いて、湿った土の上を踏むような、猫の棟伝いをするような、あるかなきかの低い足音がその方に起って、次第にこちらへ近づいて来る。途絶えては起り、途切れてはまたつづき、念の入った忍び足で玄関の近くまでやって来てそこで止る。

扉がソロソロと押開けられ、何物であろう、ヒョロ長い影を先に立てて、よろめき勝ちな黒影が玄関の間へ入って来た。

食堂の闇の中からその方を見ると、壁の上の四角な月影が古鏡の面のように薄光りしている、その中に今しも投影されたそれこそは実に意外な人物の姿だった。

官服の襟元をだらしなくくつろげ、丸く背を曲げて前屈みになった、極めて特徴のある横向きの姿。