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まと
魔都
久生 十蘭
線上閱讀久生 十蘭《魔都(まと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 頁
第八回
二十五、お茶の水風景の事 並に猿の乾物の事
「お花さん、あんたツルゲネーフの散文詩を読んだことがあるかね?」
花はびっくりしたように眼を見張って、
「いいえ、ありませんわ。どうして?」
「そうか。……なかなか優れたのがある。ひとつ、読んであげよう」
といって掌に本を載せ、人の心を優しく包むような憂鬱な声調でほのぼのと朗読を始めた。
「雀。――ふと、犬が歩をゆるめ、行手に獲物を嗅ぎつけた時のような忍び足になった。見ると、道の向いに、嘴のまわりの黄色い子雀がいた。頭に生毛が生えている。子雀は巣から振落されて動けずにいるのだ。犬は静かに歩み寄った。すると、突然、近くの樹から、胸毛の黒い親雀が……」
時計が九時を打つ。明日の午前四時までにはあとたった七時間しかない。この大騒動の最中に、真名古は何のつもりでツルゲネーフなんか読んでいるのであろう。
第八回
二十五、お茶の水風景の事
並に猿の乾物の事
見渡せば、大東京は朧月の空の下に甍々をならべ、その際は淡い靄の中に溶け込んでいる。右手に黒くおし静まっているのは日比谷の森、駿河台の方に薄白く輝く白堊の建物はニコライの聖堂であろう。
日比谷の向うの長い地平線は一種夢幻なる光暈に包まれ、緑の、青の、赤の、黄色の、明滅する、旋回する、飛発する、ありとあらゆる種類のネオン・ランプが雲を焦かんばかり、五彩の飛爆がそこに懸る