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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

疾風

になった。

それも、計らぬ災難であったが、ここに、なお重大な異変に遭遇したのは、ふたりの舟をはずして、久しぶりに、自分の家を覗きに帰った天満の万吉。

待ちわびているであろうお吉の笑くぼが、かれの目先にもうれしくチラついて、墓谷から寺町横の道の暗さも苦にならなかったが、とうとう万吉、その夜、おのれに伏せられてあったわなの壺に、まんまと足をかけてしまった。

禍いはいつも幸福の仮面をかぶって待っている。

疾風

その後、安治川屋敷にとぐろを巻いていた天堂、お十夜、旅川の三名は、何らの急報を得てか、十数名の原士をひきつれ、押ッとり刀で桃谷へ駈け向った。

かねて、弦之丞の居所を知る唯一の手がかりとして、人をもって万吉の留守宅を見張らせておいたところ、その万吉が今宵こッそりと帰ってきて、中二階のかぼそき灯にお吉と声をひそませているという――早耳。

急げばとて安治川尻から、三郷東端れの桃谷村、やや一刻はかかったろう。横堀を越えて寺町の区域をぬけると、もう大阪らしい町家の賑わいは影を滅して、幾万坪ともない闇に、数えるほどな遠い灯り。

細い二日の月は足元の頼りともならず、所々の古沼や水溜りが、ただそれと知られるくらい。