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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

お綱の両難

と、満顔に染まる血を吹いて、周馬、やぶれかぶれの声で、

「伊太夫、手を貸せッ」

お綱へ盲目刀を振るって、バッと中から飛びだしたが、とたんに、伊太夫を居合討ちに仆した弦之丞が――飛鳥――左手使いの冷刃を逆薙ぎに流して、

「卑怯者――ッ」

と肋骨をはねつける。

「うーむッ……」とおめいたが、旅川周馬、血達磨のように染まってまだ走った。しかし、それも六、七間、りゅうッと風を泳いできた捕縄に足を巻かれて地ひびきを打つ。

万吉であった。お綱も駆けよった。

弦之丞はすぐに止刀を刺してふたりへいった。

「お綱、秘帖を奪りかえせ」

万吉やかの女の手がよろこびにふるえながら周馬の死骸を探った。まだ体温のある胸、胴巻、背中、袴腰……はては脚絆の紐までといて検めたが、どうしたのだろう? 目的の秘帖はどこからも出てこない。

呆然と心にみる黒い霧が、三人の歓喜を、一瞬に、吹き荒した。と、その時、あなたの疎林を一群の人が疾走してくる。

お綱の両難

疎林の影をよぎってまっしぐらにこなたへ向ってくる一群の武士、まごうべくもあらず、安治川屋敷の原士たちと、三位卿、孫兵衛、助太刀の湧井道太郎がその先頭。