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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

ゆうべ、猫間川の土橋から、舟を出てゆく時にも、帰るまで、ここを動かないでいてくれ、とさえ念を押して行ったのに――。

と思うと、なんとなく胸さわがしい。

ふとして、そこらに、生々しい流血の痕はないか。なんぞ、万吉の持ち物でも落ちておりはしまいか。

森の日蔭のとぎれた所から、清冽な流れと小松の土手が、猫間川のほうへうねっている。この小松原は、さっき一度通ったような気もするが、念のために、かれはなお水辺の草むらを覗きながら、水の行くままにあるいてみた。

「もし」

お米は、そこで初めて、呼びかけた。かの女は、辻堂の前からここまでの間、黙って、後についてきた。宅助と争った息の疲れが、容易にしずまらないのと、また、一念に居所をさがしていた人の現れが、あまりに唐突で、あまりに路傍の人のごとくであったのと。

そして、その人に、今の取乱した姿のまま会うことが、やはり女らしく迷われたのであった。

けれど、この折を逃がしてはならない、と思う心のほうが、より強かったのはいうまでもない。

「もし」

少し、小刻みに追いついた。

「おお、今のお女中か……」

「ありがとうぞんじました。