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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

と、やがて内から障子が開かって、

「弦之丞様ですか」

とお綱の半身。

「時刻が迫っている、すぐに」と急いた。

「はい」

「支度は」

「すっかりしておきました」

「では……万吉には告げずに」

「お吉さんへ、ちょっと挨拶をしてまいります」

「これを渡してやってくれ」

内ぶところから厚ぼったく封じた手紙を出して、

「拙者たちが立ったあとで、万吉がそれと知ったら、さだめし恨みに思うであろう。委細の事情、やむなく書き残して阿波へ立つわけ。昨夜こまごまと書いておいた。これをお吉に渡して、後で病人に読み聞かせてくれるように、よく頼んでおいたがよい」

あれからずっと、万吉の家にいて、お吉と一緒に病人の手当てをしていたお綱は、もう朝から弦之丞の来あわせるのを待ちぬいていたところ。

浅黄の手甲脚絆をつけ、新しい銀杏形の藺笠と杖まで、門口に出してある。

もし万が一にも露顕した時には、四国屋で世話をしたことのある旅の能役者、桜間金五郎といつわるから、なるべく身装もそれらしくしてくれという新吉の注意だったので、お綱もあらかじめそんな支度。

「もし……お吉さん」

中二階を仰むいて、お吉へ軽く合図をしたが、なかなかおりてきそうもない。