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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

心は先を急いて猛っているが、こちらが表面の理由に偽ってきている以上、先の当然な言葉を退けるわけにはゆかない。ましてや、あくまでニコやかな心尽くしを。

有村はじりじりと思う。

先にお久良の部屋で見ておいた三個のつづら。あの雪のせ笹のつづらこそ怪しい。

寮の外へまきちらしておいた原士どもも、それが密かにこの家を出たのを嗅ぎ知ったからこそ、いっせいに船待場のほうへ追ったのであろう。

だが、どうにもならない気持で、かれは苦いうなずきを与え、大股に表のほうへ歩みかけた。

と――お久良はまた、和らかに呼びとめて、

「三位様、お履物はわざと前栽のほうへお廻し申しておきました。何せいもう表のほうは、荷埃や店の者で乱雑で、お足の踏みどころもございませぬ」

と声がらまで、愛嬌のよい物いいぶり。

庭木の暗がりを照らしながら、先に立って一歩一歩と導いて行くのにも、商家の内儀らしい細心さや年増の優しみが溶けていたが、今の場合! 寸刻もどうかと思うこの間際! 三位卿と啓之助の心になってみれば、婉曲な女人の案内は、むしろ始末にならぬ茨の枝にまといつかれている如しだ。

つづらの闇