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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
「ウウム」
と拳をにぎり、板縁に棒立ちになったまま、三位卿、お綱と思いのほかな、お米の死顔を睨みつめた。これだ! 剣山の帰りに馬上から見かけた啓之助の匿し女は!
そう思って、意外な蹉跌に、無念な唇をかみしめた。そして、そこの薄のろ武士を、足蹴にしても飽き足らなく思った。
「天堂ッ、天堂ッ」
かれの声は、にわかに癇癖をフンざかせてきた。
足の拇指をジリジリさせて、縁の板を踏み鳴らしながら、
「それはどうだ? そのつづらのほうは弦之丞に相違ないか」
と急きこんだ。
一角は、中の死骸が、金具の裏に噛みついていたため、容易に抱き出されないで弱っていたが、もしや? と彼の心もわくわくして、
「エエ、面倒」
とばかり、つづらを横に蹴倒した。
そして、ムリに引きずりだしてみると、これはただ、弦之丞とおぼしい衣類を、頭の上からかぶせられた倶利伽羅紋々の死骸――すなわち仲間の宅助だった。
狂瀾
つづら心中の形となったお米の死、宅助の死。
なんと無残な輪廻だろう。不合理な心中だろう。運命の神の皮肉さよ。
だが、真の弦之丞とお綱は、いつのまにこの二人と入れ代っていたのだろうか? なにせよ阿波方の面々、不覚のかぎりであった。