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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

狂瀾

「ちぇッ、うまうまと騙られた」

醜しとは思いながら、三位卿、歯ぎしりを噛まずにはいられない。

「今にして思い当たるのは、船待小屋ですれちがった時の、怪しげな男女であった! それを啓之助めが、おのれの非に恟々としておったがため、いらざる口出しをして、有村の明察をあやまらせた」

じだんだ踏んで口惜しがった。

原士たちは唖然として、棒を飲んだようになっていた。一角も呆ッ気にとられて、いうべき言葉を忘れている。

弦之丞の瞬速に、これだけの者が翻弄されたのか! そう思う苦々しさが、みんなの醒めた顔にみなぎっていた。

「いたずらに茫としてはおられない!」

有村は形相をかえて庭へ下りた。

「一角ッ、大急ぎでお船蔵から船を出せ。まだ先の船も、さして沖を遠くへは離れていまい」

「あっ、追手を?」

「無論。早くだ!」

「あるか、脚の早い船が?」

一角、原士の中へどなった。

「お手入れ中の納戸船、あれなら軽い、たいして人数は乗れませぬが」

「それでいい、それでいいッ」

叱りとばすように有村が急がせると、バラバラ向うへ駆けだした。櫓だ、櫂だ、帆の支度だ! そんな声が八方の闇へ別れる。

三位卿もすぐに船蔵のほうへ急ぎかけた。