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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁
いちど走りだした同心の土岐鉄馬は、ふと思いあたって、
「アッ、もしや?」
と、途中から踵をめぐらし、大急ぎで後へ戻ってみた。かれの推測は誤っていなかった。
はたして、大勘は、この機会にすなおになってはいなかった。
自分の縄尻をつかんでいる捕手を蹴倒し、源次も、腕はきかないが、親方の大勘と一緒に、死にもの狂いで、あばれ廻っていた。
近づくに従ってその様子の見えた土岐鉄馬は、いい所へ戻ってきたと一足跳びにそこへ来るが早いか、
「おのれ、まだ無用な手抗いをしているかッ」と、十手をもって、骨ぶしの砕けるほど、源次の肩を撲りつけた。――で、その途端。
「わッ……」
と、大地へ仆れたが、それは、打たれた源次ではなく、鉄馬であった。
後頭部から背すじへかけて、土岐鉄馬は斬られていた。傷が浅いので死にきれず、ウームとうめいたかと思うと、十手をつかんだなり自分の血の中をころげている。
「あッ」と、縄尻をほうりだして、逃げかけた捕手も、脛を払われて前へのめった。残るひとりは、源次が夢中で蹴とばした足の先に、脾腹をかかえて悶絶した。
途端に――源次も大勘も、今まで性なくシビれていた両の腕が、ふッと自由になって、一時に早い血の脈をうってきたのに、われながら茫然とした。