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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

何がなし、ぞっと毛穴をよだたせて、つかまれた足を抜こうとすると、だらりと重い感じがそのままついてもち上がる。

と。

「ううウ……」

人の呻きだ、弱い、苦しそうな息……。

お綱は血を騒がせながら足元を探った――手ざわり? ――一個の人体? ――が、硬く横になっている。

わなわなした指先が、その冷たい顔から胸を撫でて行った。

骨ばった老人の四肢、誰? と疑ってみるまでもなくお綱はつづけざまに名を呼んで、腕の中へ抱きあげた。

夢中で、よろばうように、洞窟を後へ戻りだした。だが、口元の明りを見ると同時に、ギクと足をすくませてしまった。

「敵は?」

外へ気を研ぎすまして、

「弦之丞様?」

と、そこの激しい乱刃を想像した。

ままよ!

必死な気もちでお綱は新藤五を構えながら、薄暮の白い明り目がけて走りだした! と、その勢いの余りに鋭く、まッしぐらな姿は世阿弥の体と縒れて、合歓の木の根元まで泳いで仆れた。

あたりを見廻すと――いつのまにか、別の所のように変っている。

いちめんな霧だ。

漠として山も樹木も見えない、ただ西の方に夕照の光だけがボッと虹色を立てている。

微小な水粒は、睫毛の先にギヤマンの玉のように光って、息づまるような乳色の気流がムクムクとゆるい運動を描いてゆく。