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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(三)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 頁

青空文庫

「――そうですか、そういうお心持であってみれば、なんとかして、お引きあわせして上げたいのは山々でございますが」

というと、お米は腹を立てたように、プイと立って、

「もう、お前に心配をかけないから」

中二階へ上がってしまった。

お吉は、ほうっておくつもりで、また、勝手へ来て、膳ごしらえにかかった。それも、自分は川長で馳走になってきているので、お米ひとりのための支度であった。

「お嬢さん――」

梯子の下から呼んだけれど、答えがない。

「――遅くなってすみませんでした。御飯をお上がりなさいましな。お好きな物がございますよ」

「…………」

「機嫌をなおして、降りていらっしゃい。え、お米さん」

「…………」

「お嫌?」

「ア、私かい、私なら今夜は食べたくないから」

それっきり、何をいっても返辞がなかった。

たださえさびしい女住居な上に、宵には、あんないまわしい乱暴をされ、その後で、慰めてくれる立場のお米がこんどは地位をかえて、妙にすねてしまったので、お吉は立つ瀬のないような寂寥に衝たれた。

気をまぎらわすため、縫物を出して、行燈の下に針を運びはじめたけれど、夜が更けても、上と下との気まずい沈黙がよけいに家の中を陰気にするばかり。