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あすなろう
あすなろう
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《あすなろう》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 19,925 字 · 41 頁
四
もの、あたしみたいな田舎者は本気にしちゃうわよ」
「初ちゃん」と向うから小女の一人が呼んだ、「こちらでお呼びよ」
「やいてるのよ」と肩をすくめ、初と呼ばれたその小女は、政からはなれながら囁いた、「あったかいのを持って来るわね」
政は頷いて盃を口へもっていった。
「彼岸に鯊を釣るみてえだ」と彼は独りごとを云った、「向うからくいついて来るんだから世話あねえや、あの文次に逃げられてどうしようかと思ったが、これでこの勘定もしんぺえなしか、いい辻占だぜ」
四
櫛形の月が空にかかっていた。天福寺の本堂が影絵のように見え、風はないが海が近いので、空気に汐の香がかなりつよく匂っていた。寺の裏にあるその空地は秋草がまばらに茂ってい、虫の鳴く音がやかましいほど高く聞えた。――空地のほぼ中央に、さしわたし二尺あまりのあすなろうの樹があり、その脇に、小舟をあげたのが伏せてあった。舟は古く、すっかり乾いていて、底板が一枚剥がれ、その穴から草の穂が伸びていた。
空地へはいって来た政は、片手に持った風呂敷包を、その小舟の底の端へ置き、片手で底板を押してみた。すると、その板はひとたまりもなく、脆い