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それから

それから

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《それから》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 172,794 字 · 347 頁

青空文庫

それ程彼は命を鋭く感じ過ぎた。従って熱い頭を枕へ着けた時は、平岡も三千代も、彼に取って殆んど存在していなかった。彼は幸にして涼しい心持に寐た。けれどもその穏やかな眠のうちに、誰かすうと来て、又すうと出て行った様な心持がした。眼を醒まして起き上がってもその感じがまだ残っていて、頭から拭い去る事が出来なかった。それで門野を呼んで、寐ている間に誰か来はしないかと聞いたのである。

代助は両手を額に当てて、高い空を面白そうに切って廻る燕の運動を縁側から眺めていたが、やがて、それが眼ま苦しくなったので、室の中に這入った。けれども、三千代が又訪ねて来ると云う目前の予期が、既に気分の平調を冒しているので、思索も読書も殆んど手に着かなかった。代助は仕舞に本棚の中から、大きな画帖を出して来て、膝の上に広げて、繰り始めた。けれども、それも、只指の先で順々に開けて行くだけであった。一つ画を半分とは味わっていられなかった。やがてブランギンの所へ来た。代助は平生からこの装飾画家に多大の趣味を有っていた。彼の眼は常の如く輝を帯びて、一度はその上に落ちた。それは何処かの港の図であった。