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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】
佐藤 春夫
線上閱讀佐藤 春夫《たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】(『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,182 字 · 48 頁
季節は秋で夢は美しい色彩があった。わたくしは二三十年ぶりで色彩のある夢を見たのである。
しばらくこの庭に佇んであたりを見まわしていたが、再び表へまわって門の入口から敷石づたいに(この敷石は偏奇館の門から玄関に通ずるものと同じであった)門から出ようとすると、家から出て来た人がある。見れば、それが夢というものなのであろう、死んだはずの荷風先生であった。わたくしは先生が突然ここに出て来たのを少しも怪しみもせず、ただ先生が黒紋つきの羽織に白い紐をつけた珍らしく改った様子なのを珍らしいと思った(わたくしは先生が時々和服で塾の講義に出たのを見ている。しかし黒紋附を着ていたのは、写真を見たことがあるだけで、その写真を珍らしいと思ったのが夢に現われたものらしい)。
わたくしは直ぐ先生に近づいて行って、今見て来た庭の景観に就いて語り、
「あの赤い尾花は東京附近にもあるものでしたか。それともわざわざどこからか持って来させたものでしょうか。あれは狐菅とか云って佐久の山野などではよく見かけるものですが」
「キツネ菅?」
「キツネ色をしているとでも云うのでしょうか」
「名は知らなかったが植木屋が持って来て一株植えたのがあんなにはびこってね。