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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ

たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】

佐藤 春夫

線上閱讀佐藤 春夫《たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】(『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 23,182 字 · 48 頁

青空文庫

コメット・X

わたしはこの男にはとてもかなわぬと思いました。でもこの男は馬鹿で、それがためにまじりけのない芸術家でした。この男は、蝶は夜になったらどこで寝るだろうかということを苦にしていたし、ゴオルデンバットの箱にある二疋の蝙蝠は夫婦にちがいないのだが、それならどちらが雌だろうかという疑問を抱いていました。この男はアラビアンナイトの中から無駄を引抜いて、それを一千一秒間に語りつづけることも出来たし、アインスタインの法則に従って、第三半球を発見するのでした。誰もとても出来そうもないことをこの男は事もなげにやってのけました。というのも、神さまが特別にこの男に恵みを垂れて、この男の頭のなかからどこかのくさびを一本外してしまったからでした。この男の全体は神聖な発育不十分でした。二十五歳にもなってこの男の頭のある部分は今だに十五歳のままでした。そうしてすべての少年のように彼は新鮮極まる官覚を持っていて、それがしかも決して不老のものでした。そうして彼の変則な頭の山や川のなかには、だからフェアリィがたくさん住んでいました。彼は生れながらの童話作家でした。神さまのミスビルディングとしてはまあ無二の傑作の部門に属すべきもので、一口にいうと、天才的とでもいうのでしょう。