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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
線上閱讀渡辺 温《アンドロギュノスの裔(アンドロギュノスのちすじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 頁
――じっとして坐っていらっしやい。もっと高く上ってしまうと、却って怖くなくなりますよ。」と私が二人をなぐさめると、西洋人はちらりと私の方を見たようであった。
軽気球はそれを繋留する綱の長さだけ上りつくして、さて止った。空の上のことだから、どんな日和にしても、必ず目に見えない風が流れていて、私共もそれに従って右や左に多少は揺られるのであった。田舎の女の人と中学生とはすっかり勇気をなくしてしまって、籠の底に坐ったまま到頭起き上がろうとしなかった。
西洋人は、上衣の下へ斜めに懸けた革のサックから双眼鏡をとり出して下界を眺めた。けれどもそれは単なる風光の見晴しが目的ではなく、正しく何か探し物をしているのであった。細長い指を苛立たしげに慄わせて、幾度となく焦点を更えては、何時迄も、何時迄も、大東京の市街の表に刻まれた一つ一つの物蔭を丹念に漁るつもりらしかった。
私は、自分の娯しみを全く等閑にして、ひたすら西洋人の態度をぬすみみた。だが、そのツァイスの精巧なレンズの目標が、果してどの見当であるかさえ、皆目推量もつかなかった。
――一体全体どんな情景をこのブリキとカンナ屑の都から摘出しようとこころみているのかしら?……