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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

線上閱讀渡辺 温《アンドロギュノスの裔(アンドロギュノスのちすじ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 頁

青空文庫

象牙の牌

『…………』

西村敬吉はひどくドギマギとして、彼の前に立った様子のいい陽気な客の顔を眺め返した。西村敬吉はつい一週間程前にこの××ビルディングの四階に開業したばかりの若い弁護士である。そして彼の前に立った様子のいい陽気な客は彼の開業以来最初の依頼人であった。

室内には明るく秋の陽ざしが流れていて、一千九百――年の九月末の或る美しく晴れた日の午後の話である。

『僕は活動役者の清水茂です。』と、客は正にそんな風な職業らしい愛想のいい微笑や言葉つきで挨拶した。『あんまり有名な方じゃありませんから多分御存知ないでしょうけれど――イヤ、でも僕は坊城君とは非常に親密な間柄なんだから、清水って名前位は坊城君からお聞き及びになっていらっしゃるかも知れませんねえ。今日こうして伺ったのも、じつは坊城君にすすめられたからなのです。』

『おお、清水君でしたか。どうも何処かでお目に掛った事がある様に思われましたが、はッはッはッは。』

左様、西村は彼の古い友である△△映画協会の美術監督をしている坊城の口から幾度となく清水の話は聞かされてもいたのだが、西村自身も相当にそんな方面の趣味を持っていたので、しばしば映写幕の上では清水の本物の数十倍も大きい顔に接して、よく見知っていた。