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きなだむら

ゼーロン・淡雪 他十一篇

牧野 信一

線上閱讀牧野 信一《ゼーロン・淡雪 他十一篇(きなだむら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,321 字 · 54 頁

青空文庫

今後はもう決して酒には見向かずにと彼は私に指切りしたが、急に仕事の方が忙しくて材料の吟味に山を越える閑もなかった。万豊は下駄材の半端物を譲った。値段を訊くとその都度は、まあまあと鷹揚そうにわらっていながら、仕事の集金を自ら引受け、日当とも材料代ともつけずに収入の半分をとってしまうと御面師は愚痴を滾した。万豊は凡てにハッキリしたことを口にするのが嫌いで、ひとりで歩いている時も何が可笑しいのかいつもわらっているような表情だった。では元々そういう温顔なのかと想うと大違いで、邸の垣根を越える子供らを追って飛出して来る時の姿は全くの狼で、不断はレウマチスだと称して道普請や橋の掛替工事を欠席しているにもかかわらず、垣も溝も三段構えで宙を飛んだ。

そのうちにも、さっきの子供たちがばらばらと垣根をくぐり出て芋畑を八方に逃げ出して来たかと見ると、おいてゆけおいてゆけ野郎ども、たしかに顔は知れてるぞなどと叫びながら、どっちを追って好いのやらと戸惑うた万豊が八方に向って夢中で虚空を掴みながら暴れ出た。万豊の栗拾いにゆくには面をもって行くに限ると子供たちが相談していたが、なるほど逃げてゆく彼らは忽ち面をかむってあちこちから万豊を冷笑した。