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チベットりょこうき
チベット旅行記
河口 慧海
線上閱讀河口 慧海《チベット旅行記(チベットりょこうき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 531,520 字 · 1042 頁
同氏は禅学熱心家で殊にそういう殺生な商売をしなくても充分生活の出来る人であるに拘わらず、依然として鶏商をやって居りますから東京からしばしば書面を送って諫め、また私がチベットへ行く時に諫めたところが「いかにも貴意を諒した。しかし今急に商売換えは出来ぬからおもむろに他の商売を見付けて必ず廃業するから」といって餞別にしてくれました。その約束通り私が出立してから一年有余の後にかの鶏商を断然廃業して今の商売に移られたのです。
これらの事は普通の人の考えから見れば余り過ぎたる行いなるかのごとく感ずるかも知れぬけれども、病気に対する薬はいつも普通の人に対しては過ぎたる薬を用うればこそ全快もするのです。普通の人に対し普通の教えを施す場合と重病人に対し良薬を施す場合とは違うということをよく知らなければならぬ。これらの不殺生の原因即ち毎日多くの魚族の命を殺すところの網を焼きあるいはその業を廃するに至らしめた功徳は、正しく私がヒマラヤ山中及びチベット高原においてしばしば死ぬような困難を救うたところの最大原因となったのではあるまいかと私は常に思うて居ったです。仏の護りは申すまでもない事ながらこの信実なる餞別が私のためにどれだけ益をしたか分らぬと思っていつも諸氏の厚い信心を感謝しました。