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ちゅうせいのぶんがくでんとう
中世の文学伝統
風巻 景次郎
線上閱讀風巻 景次郎《中世の文学伝統(ちゅうせいのぶんがくでんとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,977 字 · 230 頁
ただ『金槐集』には宮廷貴紳の心には成り立ち得ない一種の歌が存している。これは自分が周囲の者からその集団の象徴と見做されていることを感じている棟梁の歌である。この自覚は後鳥羽院においてと同じように、新古今調とか万葉調とか限定するに適しない、孤高のひびきを伝えたのである。箱根二所詣の歌、
箱根路をわが越えくれば伊豆の海や沖の小島に浪のよる見ゆ
わたつみの中に向ひて出づる湯の伊豆のお山とうべもいひけり
ちはやふる伊豆のお山の玉椿やほよろづよも色はかはらじ
たまくしげ箱根の海はけけれあれや二国かけてなかにたゆたふ
旅を行きしあとの宿守おれおれにわたくしあれや今朝はまだこぬ
などは、私は自ら王侯の身でなくてはひびかすことの出来ぬものだと思っている。万葉時代はそうしたものが、もっと残り得ている時代である。いまや時代は、王侯の上にしか、こうした声調の地盤をとどめないのである。
道のほとりに幼なき童の母を尋ねていたく泣くをその
あたりの人に尋ねしかば父母なん身まかりにしと答へ
侍りしを聞きて
いとほしや見るに涙もとどまらず親もなき子の母を尋ぬる
慈悲の心を
物いはぬ四方のけだものすらだにもあはれなるかなや親の子を思ふ