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にかいから
二階から
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《二階から(にかいから)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 頁
平手で板を叩くような皷の音をさせて、鳥打帽子を被った万歳が幾人も来ます。鉦や太皷を鳴らすばかりで何にも芸のない獅子舞も来ます。松の内早仕舞の銭湯におひねりを置いてゆく人も少いので、番台の三宝の上に紙包の雪を積み上げたのも昔の夢となりました。藪入などは勿論ここらの一角とは没交渉で、新宿行の電車が満員の札をかけて忙がしそうに走るのを見て、太宗寺の御閻魔様の御繁昌を窃かに占うに過ぎません。
家々に飼犬が多いに引替えて、猫を飼う人は滅多にありません。家根伝いに浮かれあるく恋猫の痩せた姿を見るようなことは甚だ稀です。ただ折々に何処からか野良猫がさまよって来ますが、この闖入者は棒や箒で残酷に追い払われてしまいます。夜は静です、実に静です。支那の町のように宵から眠っているようです。八時か九時という頃には大抵の家は門戸を固くして、軒の電灯が白く凍った土を更に白く照しているばかりです。大きな犬が時々思い出したように、星の多い空を仰いで虎のように嘯きます。ここらでただ一軒という寄席の青柳亭が看板の灯を卸す頃になると、大股に曳き摺って行くような下駄の音が一としきり私の門前を賑わして、寄席帰りの書生さんの琵琶歌などが聞えます。