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でんきちのかたきうち

伝吉の敵打ち

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《伝吉の敵打ち(でんきちのかたきうち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,714 字 · 10 頁

青空文庫

と声をかけた。坊主はそれでも驚きもせずに、不審そうに客を振り返った。が、白刃の光りを見ると、咄嵯に法衣の膝を起した。榾火に照らされた坊主の顔は骨と皮ばかりになった老人だった。しかし伝吉はその顔のどこかにはっきりと服部平四郎を感じた。

「誰じゃい、おぬしは?」

「伝三の倅の伝吉だ。怨みはおぬしの身に覚えがあるだろう。」

浄観は大きい目をしたまま、黙然とただ伝吉を見上げた。その顔に現れた感情は何とも云われない恐怖だった。伝吉は刀を構えながら、冷やかにこの恐怖を享楽した。

「さあ、その伝三の仇を返しに来たのだ。さっさと立ち上って勝負をしろ。」

「何、立ち上れじゃ?」

浄観は見る見る微笑を浮べた。伝吉はこの微笑の中に何か妙に凄いものを感じた。

「おぬしは己が昔のように立ち上れると思うているのか? 己は居ざりじゃ。腰抜けじゃ。」

伝吉は思わず一足すさった。いつか彼の構えた刀はぶるぶる切先を震わしていた。浄観はその容子を見やったなり、歯の抜けた口をあからさまにもう一度こうつけ加えた。

「立ち居さえ自由にはならぬ体じゃ。」

「嘘をつけ。嘘を……」

伝吉は必死に罵りかけた。が、浄観は反対に少しずつ冷静に返り出した。