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でんきちのかたきうち

伝吉の敵打ち

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《伝吉の敵打ち(でんきちのかたきうち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 4,714 字 · 10 頁

青空文庫

ただその大きい目前の影は疑う余地のない坊主頭だった。のみならずしばらく聞き澄ましていても、この佗しい堂守のほかに人のいるけはいは聞えなかった。伝吉はまず雨落ちの石へそっと菅笠を仰向けに載せた。それから静かに旅合羽を脱ぎ、二つに畳んだのを笠の中に入れた。笠も合羽もいつの間にかしっとりと夜露にしめっていた。すると、――急に便通を感じた。伝吉はやむを得ず藪かげへはいり、漆の木の下へ用を足した。この一条を田代玄甫は「胆の太きこそ恐ろしけれ」と称え、小泉孤松は「伝吉の沈勇、極まれり矣」と嘆じている。

身仕度を整えた伝吉は長脇差を引き抜いた後、がらりと地蔵堂の門障子をあけた。囲炉裡の前には坊主が一人、楽々と足を投げ出していた。坊主はこちらへ背を見せたまま、「誰じゃい?」とただ声をかけた。伝吉はちょいと拍子抜けを感じた。第一にこう云う坊主の態度は仇を持つ人とも思われなかった。第二にその後ろ姿は伝吉の心に描いていたよりもずっと憔悴を極めていた。伝吉はほとんど一瞬間人違いではないかと云う疑いさえ抱いた。しかしもう今となってはためらっていられないのは勿論だった。

伝吉は後ろ手に障子をしめ、「服部平四郎」