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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

呉羽 せめて一日でも生きたいと、こうして働いてはいるものの、これがいつまで続こうやら……。(嘆息しつつ空を仰ぐ。)おお、こんなことを云うているひまに、やがて日も暮れまする。

綾の局 ほんに空も陰って来ました。このごろの日和くせで、冷たい潮風が吹いて来ると、つづいて雨の来るのが習い。湿れぬうちに戻りましょうか。

呉羽 苫屋に雨の漏らぬように、軒のやぶれもつくろうて置かねばなりますまい。

綾の局 召仕いもなき佗び住居は、なにやらかやら心せわしいことでござるのう。

(二人は籠をたずさえてとぼとぼとあゆみ去る。浜のわらべ甲乙丙の三人いず。乙は赤き蟹を糸に縛りて持ったり。)

童乙 どうじゃ。平家蟹はまだいるかの。

童甲 あいにくに夕潮が一杯じゃ。これでは蟹も上がりそうもないぞ。

童丙 では、あすの朝、潮の干た頃に捕りに来ようかのう。

(弥平兵衛宗清、四十余歳、今は仏門に入りて雨月という。旅姿、笠と杖とを持ちていず。)

雨月 これ、これ、平家蟹とは……。どのような蟹じゃな。

童乙 これじゃ。見さっしゃれ。

(蟹を見せる。雨月はじっと視る。)

雨月 この蟹をなぜ平家と云うのか。

童甲 この壇の浦で平家が亡びてから、ついぞ見たことのない、こんな蟹が沢山に寄って来ましたのじゃ。