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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

二

それは恐らくまことの人間ではあるまい。山姫のたぐいであろうと誰も彼も言った。しかし大勢のなかにはそれを疑う者もあって、兄の藤次郎に実否をただすと、藤次郎はいつもこう答えていた。

「その時は俺は弟と一緒におらなんだ。あいつがなにを見たか俺は知らぬ。」

それから十日と経たないうちに、雉六は寝床のなかで頓死していた。藤次郎は生涯それを誰にも洩らさなかった。彼が老後の重病に罹かって、しょせん生きられないと自分でも覚悟した時に、はじめて白旗山の秘密を明かした。

「その怪しい美しい上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)というのは、実は俺も見た。」

しかしその正体が何であるかは、いつまでもここらの里びとの疑問として残されていた。

二

その後も世の乱れは絶えなかった。かえって、そのむかしよりも禍いが大きくなって来たように見えた。

かの応仁の戦乱を始めとして、それから元亀天正に至る百余年の間、日本国じゅうに起こった大小の戦乱を一々かぞえ立てることは、専門の歴史家に取ってもなかなか重大の仕事であろう。その禍いの絶頂ともいうべき天正九年に、羽柴筑前守秀吉は織田信長の命令をうけて、中国一円を切り従えるべく攻め下った。