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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

三

しかしその頭が右へも左へも動かないのを見て、侍女どもは又うす気味悪くなって来た。かれらはもう笑ってはいられなくなった。中間も何だか一種の不安を感じて来たらしく、侍女どもに眼配せして一度に起ち上がった。

「姫上。そのような気ちがいにお構い遊ばすな。さあ、お越しなされませ。」

「ほんに時も移りまする。さあ、早うおいでなされませ。」と、侍女どもは無理に小坂部を急き立てて行った。

眇目の男はこの主従のあとを追おうともしなかった。幾年の艱難を凌いでようように尋ねあてたという獲物を、そのまま素直にやり過ごして、彼は口の中で何かの呪文を唱えながら、どこへか消えるように立ち去ってしまった。

三

双ヶ岡の庵のあるじの姿は見えなかった。秋晴れのうららかな日和にそそのかされて、遁世の法師もどこかへ浮かれ出したのであろう。竹の戸はもとより閉ざしてもないので、主従は縁先きまで入り込んで幾たびか案内を求めたが、内には何の返事もきこえなかった。中間は焦れて、裏口から廻って厨らしい所を覗いたが、そこにも人のかげは見えなかった。いよいよ留守と決まったので、小坂部は中間に持たせて来た音物を縁の端に置き列べさせて、自分はそっと内へあがった。