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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁
かれは小机の上にある筆をとって、懐紙に「雪つもるなよ竹の」と書いて、それを丁寧にたたんで音物の上に置き添えて出た。
なよ竹の――それは兼好が小坂部に頼まれて書いた恋歌であった。雪つもるなよ竹の――これは小坂部がその結果を兼好に報告する古歌であった。むかしの歌に「雪つもる松はぞ如何に嫋竹の、おれぬ節こそ嬉しかりけれ」とある。兼好がそれを知らない筈はない。なよ竹の遂に折れなかったという報告はこれで十分であるとかれは思った。
あるじのいない庵をあとに見て、いつものすすき原を越えて帰る途中、かの「なよ竹」も「雪つもるなよ竹」も、もう小坂部の心にはなかった。かれの心を支配しているものは、異国の眇目の男から突然に投げ付けられた一種の怪しい謎であった。勿論、彼の言うことは真面目に受け入れるべきものでは無かったかも知れなかった。大明の国使にしたがって来たなどというのは跡方もない嘘かも知れなかった。しかし小坂部の疑いは、彼が何のためにそんな嘘をつくかということであった。いわれも無くして取り留めもないことを口走ったとすれば、しょせん彼を一種の気違いと認めるのほかはなかったが、小坂部はまわりの人々とおなじように、ただ無雑作に彼を気違いと決めてしまう気にはなれなかった。