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へいけがに

伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁

青空文庫

いつもの病気見舞以外に何か重大な事件が絡んでいるらしいことを、かれは早くも推量した。自分の部屋へ戻って見ると、侍従はもうそこにいなかった。使いに出た采女もまだ帰らないとのことであった。

物を書く小さい机の前に坐ったが、きょうの小坂部はいろいろ考えさせられることが多かった。途中で偶然出逢った眇目の異国の男のことも、胸の奥にしみ付いて離れなかった。塩冶の内室に対する父の心もまだ本当には覚られなかった。一日か二日のうち――その解けない謎も気がかりであった。しかも現在、かれが魂を最も強く引っ掴んでいるのは、かれと采女とのあいだに横たわっている結婚問題であった。

なよ竹の執筆を兼好法師にたのんで来て、父の機嫌のひどく好いのを窺って、かれは甘えるように父に訴えた。若い家来の本庄采女を自分の婿に決めてくれと、かれは父にねだった。この訴訟には師直も案外らしい眼をったが、相手は自分の愛娘である。殊に場合が場合であるので、彼もさすがにそれを叱り付けることは出来なかったらしく、まずは曖昧のうちに承認の返事をあたえた。そのあいまいの口ぶりが少しおぼつかないので、小坂部は更に踏み込んで念を押すと、師直も結局たしかに承知したと言い切った。