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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁
かれは牛飼いに牽かるる仔牛のように、素直に男のあとに付いてゆくと、彼は五、六町ほども細径をたどって、城の大手らしい松並木の広い路に出た。昔は知らず、いまはここらを往来する者もないらしく、並木のあいだは一面の秋草に埋められて、おどろに乱れた茅は人の丈を越えていた。その草むらの中には、雷火に打たれたらしい松の大樹の幹が横たわっていた。男は小坂部の手をひいて、足もとも見えない草や落葉や枯枝を踏み越えて行った。その足音におどろかされて、狐か狸か、草むらをくぐって逃げる獣の姿を小坂部は折りおりに見た。
堀も大方は埋もれて、水の色も見えないほどに生い茂った高い草が夕風にさやさやと靡いていた。朽ちかかったあぶない橋を渡って、二人は大手の門を入ると、桝形の石垣もくずれ落ちて、大きい石がそこにも此処にもころげていた。男は草を分けてその石垣を這い登ると、眼の上には高い甍が仰がれた。
「これは天主閣というのじゃ。」と、男は夕暮れの空に聳えている高い建物を指さした。
それは古い寺に見る塔のようなもので、高さは二十丈を越えているらしく思われた。小坂部は天主閣という名すらも知らなかった。