輕鬆讀懂日語經典作品
ja-reading.com
輕鬆讀懂日語,輕鬆閱讀日語。線上閱讀日語經典作品。支援在閱讀過程中顯示假名、查詢生詞、翻譯句子。
へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集(へいけがに)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,094 字 · 411 頁
」
敗軍の陣屋はひっそりと鎮まって、焚きさしの篝火の光りもこの兄弟の影のように薄かった。木戸の外には宵から降り出した春雨の音がしとしとときこえた。運命の急転を痛切に感じた二人は、陣扇のかなめを膝に突き立てたままで、しばらくは黙って顔を見あわせていた。
「将軍家は明早朝に京へ引き揚げらるるという。われらも成るべくお側を離れぬようにして、轡をならべてまいるが肝要じゃ。将軍家の見る前では、何者もさすがに手出しはあるまいぞ。」と、師直はやがて小声で言った。
この期に及んでも、彼は猶その主君の袖にかくれて、敵味方の迫害を逃がれようとするのであった。師泰もそれに同意した。かれらは家来の横井弥兵衛を呼んで、袈裟や法衣や珠数や蓮葉笠や、僧形に必要な品々を取り揃えてまいれと命じた。不得心らしい彼を急かし立てて追いやって、二人は先ずほっと息をついた。
「これで生きらるるわ。」
師直はさびしく笑った。しかもその笑い顔は俄かにゆがんで、彼はあわてて傍にある太刀を引き寄せた。
「おのれは誰じゃ。」と、彼は庭さきの闇を透かしながら、叱るように訊いた。
消えかかった篝火の前には、黒い影がまぼろしのように立っていた。