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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《八ヶ嶽の魔神(やつがたけのまじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 160,664 字 · 323 頁

青空文庫

――さて、そこで山吹さん、どこの話をしましょうかな?」

「はい」と山吹は活気づき、

「それではどうぞ江戸の話をお聞かせなされてくださいまし」

「よろしゅうござる、江戸の話をそれではお聞かせ致すとしましょう」

妙な人は瞑目し何かじっと考えていたが、

「江戸は悪魔の巣でござるよ!」

一句鋭く喝破した。

「いえ違います違います!」

と嘲けるように叫び出したのは充分多四郎の甘言によって江戸の華美さを植え付けられた彼女山吹に他ならなかった。

「いいえ江戸は美しい人達の華美に遊びくらしている極楽だということでござります!」

「聞け!」と再び鋭い声が妙な人の口から迸ったが、一座その声に威圧され一度にしんと静かになった。

さて、そもそも妙な人は何を語ろうとするのであろう? しかし少なくも妙な人は、虚栄虚飾に憧憬れている山の乙女山吹の心をその本来の質朴の心へ返そうとしているのは確からしいが、はたして山吹は彼の言を聞き元の乙女に立ち返るか、それとも多四郎に誘惑されるか? これこそ作者が次において語らんとする眼目である。

一一

岩太郎と山吹とを前に据えて白衣長髪の妙な人は江戸の話を話し出した。