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クルスかんのん

十字架観音

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《十字架観音(クルスかんのん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 13,655 字 · 27 頁

青空文庫

「それは有難い、今晩いよいよとりかかるとしようか」

「余吾之介様」

「なんだ」

「警固がないといっても、ずいぶん危い仕事じゃありませんか」

「そうかも知れぬ」

「間違えば命に拘りましょう」

「素より生死は天に任せる」

「余吾之介様」

「何んだ」

「これっきりお別れになったらどうしましょう」

何時の間にやらお秋は、余吾之介の膝に、その半身を投げかけておりました。折られた花のように、なよなよと重みがかかると、なんとも言えない香気が、男の嗅覚を悩乱させるのでした。

「何をつまらぬ」

余吾之介は、その両脇に手を差し入れて、ソッと抱き起すと、少し退り加減に苦い顔をしました。

「こんなに思い込んでいるのに、余吾之介様、それはあんまり情無いというもの」

「待て待て。お秋は勘違いをしているのだ、俺には、鹿の子という、まだ祝言はせぬが、定まる配偶がある」

「――――」

「お前の気持はよく解るが、この上の罪を重ねるわけにはゆかぬ」

「それでは、どうして番場町へ帰りません」

「俺は鹿の子が怖いのだ、あの女は、あまりに聖らかだ、夜も昼も、祈りに暮れている」

「それじゃ鹿の子様は、もしや昔のままの切支丹の宗門を――」