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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《問はずがたり・吾妻橋 他十六篇(あづまばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 頁
わたくしは昭和現在の時勢に阿ねる心でこれを言うのではない。日本の自然のあらゆる物は子供の時からそういう心持をさせていたのである。わたくしは既に幾度か、物に触れ時に感ずるたびたび、日本の風景草木鳥獣から感受する哀愁に就いて、古来の詩歌文学を例証として、飽くことなくこれを筆にしていた。詩興の源泉をいつもここから汲み取ろうとしていた。萩や桔梗の花の色と、時鳥や鹿の鳴く声――風土固有の動植物までがいかなる感情を誘い出したかと云う事である。わたくしは今更自分の旧著について云々することを欲しないが、その中に「冷笑」また「父の恩」の如き拙作のあった事を記憶している読者は、容易にわたくしの心境を推察してくれるであろう。
わたくしがここに繰返して言おうとするのは、その国の気候風土のかくまで穏和なるに反して、何故にその歴史が戦乱の断続によって綴り成されているかと云う事である。風土の穏和は何故にその感化を民族の心情に及すことが少かったのであろう。わたくしは他の民族との間に起った戦争については、事態の複雑多面なるが故に姑く言うことを避けよう。わが過去の物語は寺院の僧徒にさえ兵器を携えさせた時代のあった事を教えている。