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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《問はずがたり・吾妻橋 他十六篇(あづまばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 頁
ビールは二本しかないそうで、後は日本酒になったが新太郎は二、三杯しか飲まなかった。問われるままに、休戦後満洲から帰って来るまでの話をしている中、女中が飯櫃を持出す。おかみさんが茶ぶ台の上に並べるものを見ると、鯵の塩焼。茗荷に落し玉子の吸物。茄子の煮付に香の物は白瓜の印籠漬らしく、食器も皆揃ったもので、飯は白米であった。
飲食物の闇相場の話やら、第二封鎖の話やら、何やら彼やら、世間の誰もが寄ればきまって語り合う話が暫くつづいている中夕食がすんだ。庭はもう真暗になって、空の星が目に立ち松風の音が聞えて、時々灯取虫が座敷の灯を見付けてばたりばたりと襖にぶつかる。垣隣りの家では風呂でも沸すと見えて、焚付の火のちらちら閃くのが植込の間から見える。新太郎は腕時計を見ながら、
「突然伺いまして。御馳走さまでした。」
「また話においで。」
「おかみさん。いろいろありがとう御在ました。何か御用がありましたら、どうぞ葉書でも。」
新太郎は幾度も頭を下げて潜門を出た。外は庭と同じく真暗であるが、人家の窓から漏れる灯影をたよりに歩いて行くと、来た時よりはわけもなく、すぐに京成電車の線路に行当った。