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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《問はずがたり・吾妻橋 他十六篇(あづまばし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 頁
自分はさし当りここより外に身を置く処がない事を意識するのが、情けなくていやなのである。自分にはここばかりでなく、外に行く処はいくらもあるが、好んでこの家に来ていると云うようにもしも思いなす事ができたなら、自分は決していやだとも居辛いとも、そんな妙な心持にはならなかったであろう。しかし実際は全くそれとは相違して、ここより外に行きどころのない身である事は明瞭である。そう思うと心細く悲しくなると同時に、何も彼も癪にさわって腹が立って来てたまらなくなるのである。
どんな職業でもかまわない。季子は女中でも子守でも、車掌や札切でもいいから、どこにか雇われたいと思っているが、それは姉夫婦が許してくれそうにも思われない。人に聞かれても外聞の悪くないような会社や役所の事務員には、疎開や何かの為高等女学校は中途で止してしまったままなので、採用される資格が無い……。
ふと思い返すと、市川の姉の家へ引取られて、わずか四、五日にしかならない頃であった。一番上の姉よりもずッといい処へ片付いている二番目の姉が鎌倉の屋敷から何かの用事で尋ねて来た時、話のついでにこの頃は復員でお嫁さんを捜しているものが多いから、季子も十七なら、いっそ今の中結婚させてしまった方がいいかも知れないと言っていたのを、蔭でちらりと聞いたことがあった。