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ほうおんき
報恩記
線上閱讀芥川 竜之介《報恩記(ほうおんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,803 字 · 30 頁
弥三右衛門の下座には、品の好い笄髷の老女が一人、これは横顔を見せたまま、時々涙を拭っていました。
「いくら不自由がないようでも、やはり苦労だけはあると見える。」――わたしはそう思いながら、自然と微笑を洩らしたものです。微笑を、――こう云ってもそれは北条屋夫婦に、悪意があったのではありません。わたしのように四十年間、悪名ばかり負っているものには、他人の、――殊に幸福らしい他人の不幸は、自然と微笑を浮ばせるのです。(残酷な表情)その時もわたしは夫婦の歎きが、歌舞伎を見るように愉快だったのです。(皮肉な微笑)しかしこれはわたし一人に、限った事ではありますまい。誰にも好まれる草紙と云えば、悲しい話にきまっているようです。
弥三右衛門はしばらくの後、吐息をするようにこう云いました。
「もうこの羽目になった上は、泣いても喚いても取返しはつかない。わたしは明日にも店のものに、暇をやる事に決心をした。」
その時また烈しい風が、どっと茶室を揺すぶりました。それに声が紛れたのでしょう。弥三右衛門の内儀の言葉は、何と云ったのだかわかりません。が、主人は頷きながら、両手を膝の上に組み合せると、網代の天井へ眼を上げました。