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ほうおんき

報恩記

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《報恩記(ほうおんき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 14,803 字 · 30 頁

青空文庫

それがあたりの容子では、どうしても茶室に違いありません。「凩の茶か」――わたしはそう苦笑しながら、そっとそこへ忍び寄りました。実際その時は人声のするのに、仕事の邪魔を思うよりも、数寄を凝らした囲いの中に、この家の主人や客に来た仲間が、どんな風流を楽しんでいるか?――そんな事に心が惹かれたのです。

襖の外に身を寄せるが早いか、わたしの耳には思った通り、釜のたぎりがはいりました。が、その音がすると同時に、意外にも誰か話をしては、泣いている声が聞えるのです。誰か、――と云うよりもそれは二度と聞かずに、女だと云う事さえわかりました。こう云う大家の茶座敷に、真夜中女の泣いていると云うのは、どうせただ事ではありません。わたしは息をひそめたまま、幸い明いていた襖の隙から、茶室の中を覗きこみました。

行燈の光に照された、古色紙らしい床の懸け物、懸け花入の霜菊の花。――囲いの中には御約束通り、物寂びた趣が漂っていました。その床の前、――ちょうどわたしの真正面に坐った老人は、主人の弥三右衛門でしょう、何か細かい唐草の羽織に、じっと両腕を組んだまま、ほとんどよそ眼に見たのでは、釜の煮え音でも聞いているようです。