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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
線上閱讀蒲原 有明《夢は呼び交す(ゆめはよびかわす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 頁
そうは思うものの、その数はいたって少ないものである。漸く拾いあげたものを次に列挙する。
多摩川の渡し場。そこから川上に富士を仰ぎ見たこと。これは大師詣の途すがらであったのだろう。それから品川の料亭で、愛想の好いお酌に、「坊ちゃん。あそこをご覧なさい。お舟がきれいに明りをつけていごいていますね。」少女はそんな言葉をささやいた。母に連れられて、どうしてそんな場所に来ていたものか、それは判らない。まだも一つ。それは麻布の森元座で、佐倉宗五郎の磔刑に処せられる芝居を見たこと。四谷の桐座へも行ったこと。その頃は何かというと観劇である。それで見ても母の好みのほどがどうであったかが窺われる。
先ず鶴見が四、五歳ぐらいまでの思い出としては以上のようなものである。
それにしても母に連れられて物見遊山に出歩いた享楽の日も、やがて終末を告げねばならなくなった。
明治十三年、五歳の時平河小学に入校。同十五年には今までの古い家を壊して、その跡に新築することになり、傍にあった小屋で一冬を過すことになった。郷里から次姉が迎えられたが、この不自由な佗住居で炊事の手伝をしていた。