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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
線上閱讀蒲原 有明《夢は呼び交す(ゆめはよびかわす)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 頁
――鴎外は取り乱さざるを沈著な態度を以て事象の実相を観照することを忘れていない。年代記的なもの、史伝的なものを書く場合でも、そういう観照力が時々片鱗を示して、無味なるべき叙述に塩を与えてくれる。『阿部一族』における蜻蛉の描写なども凄いほどの効果を示しているといって、鴎外の実相観入の力を称えている。
その通りである。鶴見は一も二もなくそう思った。長十郎はその日一家四人と別れの杯を酌み交し、母のすすめに任せて、もとより酒好きであった長十郎は更に杯を重ね、快く酔って、微笑を含んだまま午睡をした。家の内は物音一つ聞えずにひっそりしている。窓の吊葱に下げた風鈴が折々微かに鳴るだけである。かような奥深い静寂が前に挙げたような状態で一疋のやんまに具体化されているのである。この場合それはむしろ象徴といった方が好いかも知れない。
吹田さんは鴎外の文をよく読んでよく理解された。吹田さんはよほどこの蜻蛉に強く打たれたものと見えて、その感動をただ物凄いとかぞっとしたとかいう言葉で言い現わしているが、それも鴎外をよく読んだものの純粋無垢なる感歎であろう。鶴見はそう思って見て、かえって自分がこの微妙な描写に行き当った時、最初果してどういう衝撃を受けたか、そこのところを顧みなくてはならなくなった。