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ゆめどのさつじんじけん

夢殿殺人事件

小栗 虫太郎

線上閱讀小栗 虫太郎《夢殿殺人事件(ゆめどのさつじんじけん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 頁

青空文庫

入ると、盤得尼は正面の扉を指差して、

「此処で御座います」と男のような声で云った。「夢殿と申しまして、以前は寺院楽と黙行の修行所に当てて居りましたのですが、最近では此処で、推摩居士が祈祷と霊通を致すようになりまして……」

そこには、黒漆塗の六枚厨子扉があって、青銅で双獅子を刻んだ閂の上には、大きな錠前がぶら下っていた。盤得尼が錠前を外し扉を開くと、正面には半開きになっている太格子の網扉があって、その黒い桟の内側には、西の内を張った※(「木+需」、第4水準2-15-67)子障子が、格の間に嵌められてあった。然し、その重い網扉がけたたましい車金具の音と共に開かれ、鉄気が鼻頭から遠ざかると同時に、密閉された熱気でムッと噎せ返るような臭気を、真近に感じた。前方は二十畳敷程の空室で、階下の板敷と二階の床に当る天井の中央には、関東風土蔵造り特有とも云う、細かい格子の嵌戸が切ってあった。そして、双方の格子戸から入って来る何処かの陽の余映を、周囲の壁が、鈍い銅色で重々しく照り返していて、またその弱々しい光線が、正面の壁に打衝ると、そこ一面にはだかっている十一面千手観音の画像に、異様な生動が湧き起されて来るのだった。