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だいぼさつとうげ
大菩薩峠10
中里 介山
線上閱讀中里 介山《大菩薩峠10(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 285,635 字 · 558 頁
神主は頼まれもしないのに、立って床の間から一巻の絵巻物を持って来て、
「物臭太郎物語――ね、これでございます、なかなか名文章でございますよ、竹取、うつぼ、源氏物語などとは違った面白味がございます。滑稽味のある古文では、ここらが第一等でござんしょう。日本人にはいったい、滑稽味が乏しいなんて言う人もありますが、どうして、この辺になると、古雅で、上品で、そうしてたまらない可笑味がございます。ひとつ、読んでお聞かせ申しましょう、ようござんすか、お聞きなさい」
神主はこういって兵馬の前に、その絵巻物を繰りひろげ、
「東山道、みちのくの末、信濃の国、十郡のその内に、つくまの郡、新しの郷といふ所に、不思議の男一人はんべり、その名を物臭太郎ひぢかずと申すなり……」
ここで兵馬は、ははあ、物臭太郎にも名乗りがあるのだな――物臭太郎ひぢかず、ひぢかず――という字は、どう当てるか知らないが、ともかく、物臭太郎も名乗りを持っているということを、この時はじめて知りました。
「ただし、名こそ物臭太郎と申せども、家づくりの有様、人にすぐれてめでたくぞはんべりける……」
と読まれて、では、名こそ有難くはない名だが、家はこのあたりの豪族にでも生れたのだろう。