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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠5(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 頁

青空文庫

「わーっ、水、水、水が……」

そこで名状すべからざる混乱が起って、残らずの人が七顛八倒です。七顛八倒しながら、かの上り口のところへ押しかけて、前にお角と船頭とがしたように、先を争うて甲板の上へ走り出そうとして、押し合い、へし合い、蹴飛ばされ、踏み倒され、泣き喚いて狂い廻ります。船の外は真暗な天地に、囂々と吼ゆる風と波とばかりです。船は木の葉のように弄ばれて、すでに振り飛ばすべきものの限りは振り飛ばしてしまいました。綱を増した碇も引断られてしまい、唯一の帆柱でさえも、目通りのあたりから切り折られてしまった坊主船は、真黒な海の中で、跳ね上げられたり、打ち落されたり、右左にいいように揉み立てられ、散々に翻弄されて、それでもなお残忍な波濤の間に、残骸を見せつ隠しつしている有様です。

尋常では腰の定まるべくもないこの場合の甲板の上を、転びもせずに、吹き荒れる雨風をうまく調子を取って、ひらりひらりと物につかまりながら走って来るのは、むかし取った杵柄ではなく、むかし鍛えた軽業の身のこなしでもあろうけれど、この女の勝気がいちずに、不人情を極めた手前勝手な船頭の手から逃れて、これに反抗を試みようとして、思慮も分別も不覚にさせてしまったものと見るほかはありません。