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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

線上閱讀中里 介山《大菩薩峠5(だいぼさつとうげ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 頁

青空文庫

その人影は、頭巾で覆面をした武士の姿に相違ないことも、お倉の壁に反射した月の光で明らかに認めることができるのであります。しかも、それが悠々としてというよりは、ふらふらとして足許危なく歩いて行くのは、或いは傷ついているのかとも思われるほどです。けれども、ガラリと窓をあけた途端に、その覆面の武士はひらりといずこへか身を隠してしまいました。

遠藤老人はそのままにしておけばよかったのだけれども、実は宵からの酒気がまだ去らないのに、この老人は若い時から槍が多少の得意でありました。だから長押にかけてあった槍を取って、酒気に駆られて、ひとりで表へ飛び出したのは年寄に似気なきことでした。

「待て、曲者」

その槍を構えて、いま辻斬の狼藉者のふらふらと歩んで行って、ふと隠れたと覚しい榛の木馬場の前まで追いかけました。

寝静まっていた老人の家の者は誰もそれを知りません。また近所の人とても、更にそれと知って出合う様子も見えないほど夜は更けていました。もしまたそれと知った者があっても、斯様な際には、心ならずも空寝入りをして聞き逃すのが例でありました。遠藤老人とても酒の気さえなければ、そうしていたに違いないけれども、酒は、怜悧を以って聞えたこの老人をもかほどな無謀なものにしてしまいました。